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会社運営に役立つ法令情報

【経営】

不妊治療と仕事との両立に関するマニュアルなどを公表

 厚生労働省から、「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」及び「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」が公表されました。マニュアルは、各企業において、不妊治療と仕事との両立を図る休暇制度・両立支援制度等の環境整備や利用促進、不妊治療を受ける社員に対するハラスメントのない職場づくり、ひいては不妊治療を行う社員も含めた全ての社員が働きやすい職場風土づくりを進めることができるように作成されたものです。今回は、令和3年度に作成されたマニュアルについて、数値等を更新したとのことです。また、ハンドブックは、不妊治療の内容や職場での配慮のポイントなどを紹介するものとなっています。

現在、さまざまな企業で、社員が不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりに取り組む動きが広がっています。こうした取組は、離職の防止、社員の安心感やモチベーションの向上、新たな人材をひきつけることなどにつながり、企業にとっても大きなメリットがあります。企業が社員の事情に応じてサポートする姿勢を示すことは、働く本人にとっても、一層仕事への意欲が増すなどの大きな影響を与えると考えられます。逆に、不妊治療と仕事との両立ができず離職する社員が増えることは、労働力の減少、ノウハウや人的ネットワーク等の消失、新たな人材を採用する労力や費用の増加などのデメリットを企業にもたらします。

不妊治療と仕事との両立については、令和3年2月に次世代育成支援対策推進法(以下「次世代法」)に基づく行動計画策定指針が改正され、一般事業主行動計画に盛り込むことが望ましい事項として追加され、令和3年4月より適用されています。令和4年4月からは不妊治療と仕事との両立に取り組む優良な企業に対する新たな認定制度が創設され、次世代法に基づく「くるみん認定」等にプラスされました。さらに、不妊治療のために利用できる休暇制度や両立支援制度の導入や利用促進に取り組む中小企業事業主に対しては、令和3年度より助成金が支給されるなど、国の支援も進んでいるところです。
また、新型コロナウイルス感染症への企業における対応の中で、不妊治療と仕事との両立において、テレワークとフレックスタイム制や短時間勤務制度との組み合わせにより、治療との両立を図る柔軟な働き方も見受けられるところです。さらに、令和4年4月からは不妊治療の保険適用もスタートしました。

マニュアルは、令和3年度に作成したものについて最新の数値等を更新した改訂版です。(企業の取組事例の更新はありません)より多くの企業に本マニュアルを活用していただき、不妊治療と仕事との両立を図る休暇制度・両立支援制度等の環境整備や利用促進、不妊治療を受ける社員に対するハラスメントのない職場づくり、ひいては不妊治療を行う社員も含めた全ての社員が働きやすい職場風土づくりを進めていただきたいとのことです。

■企業における不妊治療と仕事との両立支援に取り組む意義
(1)現状
【全出生児に占める生殖補助医療による出生児の割合】

2020年に日本では60,381人が生殖補助医療により誕生しており、これは全出生児(840,835人)の7.2%に当たり、約13.9人に1人の割合になります。
全出生児に占める生殖補助医療による出生児の割合
【不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦の割合】
日本では、不妊を心配したことがある夫婦は39.2%で、これは夫婦全体の2.6組に1組の割合になります。また、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は22.7%で、これは夫婦全体の4.4組に1組の割合になります。
不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦の割合
【不妊治療に関する認知の状況】
約8割の労働者は不妊治療に係る実態を理解しておらず、また、約7割の企業で、不妊治療を行っている従業員の把握ができていません。
不妊治療に関する認知の状況
【仕事と不妊治療の両立状況】
不妊治療をしたことがある(または予定している)労働者の中で、「仕事と両立している(または両立を考えている)」とした人の割合は53%になっていますが、「仕事との両立ができなかった(または両立できない)」とした人の割合は35%となっています。
仕事と不妊治療の両立状況
【仕事と不妊治療の両立ができなかった理由】
仕事と不妊治療を両立できずに仕事を辞めたもしくは不妊治療をやめた、または雇用形態を変えた理由は、「精神面で負担が大きいため」「通院回数が多いため」「体調、体力面で負担が大きいため」が多くなっています。
仕事と不妊治療の両立ができなかった理由
【不妊治療の職場への共有状況】
不妊治療をしている(または予定している)労働者のうち、「一切伝えていない(または伝えない予定)」とした人が最も多く、「職場ではオープンにしている(またはオープンにする予定)」とした人は、1割強にとどまっています。「職場ではオープンにしている(またはオープンにする予定)」としなかった労働者が、職場でオープンにしていない理由としては、「不妊治療をしていることを知られたくないから」「周囲に気遣いをしてほしくないから」「不妊治療がうまくいかなかったときに職場に居づらいから」などとする人が多く、職場で不妊治療していることを受け入れる風土が十分に醸成されていないことがうかがわれます。

【不妊治療による職場での嫌がらせ等の影響】
不妊治療をしていることを職場の一部にでも伝えている人のうち、職場で上司や同僚から嫌がらせや不利益な取扱いを受けた人も一定程度います。

【仕事と不妊治療を両立する上で利用した制度】
不妊治療をしている(または予定している)労働者の中で、利用した(または利用しようとしている)制度は、「年次有給休暇」が最も多く、次いで「柔軟な勤務を可能とする制度(勤務時間、勤務場所)」「休職制度」となっています。

【仕事と不妊治療との両立をする上での会社等への希望】
不妊治療をしている(または予定している)労働者が会社や組織等に希望することとしては、「不妊治療のための休暇制度」や「柔軟な勤務を可能とする制度(勤務時間、勤務場所)」「有給休暇を時間単位で取得できる制度」が多く挙げられていますが、その他、「有給休暇など現状ある制度を取りやすい環境作り」や「上司・同僚の理解を深めるための研修」等も一定程度ニーズが見られます。
仕事と不妊治療との両立をする上での会社等への希望
(2)不妊治療と仕事との両立支援に取り組む意義
(1)に記載した調査によれば、近年、不妊治療を受ける夫婦が増加しており、生殖補助医療による出生児の割合も増加しています。しかしながら、不妊治療に係る実態については「ほとんど知らない」「全く知らない」とする労働者が8割近くいるとともに、企業の67%は不妊治療を行っている社員を把握していないという実態があります。そうした中で、不妊治療と仕事との両立について、両立しているとする者は約5割しかおらず、約35%は仕事を辞めたり、雇用形態を変えていました。

企業にとって、不妊治療と仕事との両立が困難なことにより離職する人材が増えることは、労働力の減少、ノウハウや人的ネットワーク等の消失、新たな人材を採用する労力や費用の増加などのデメリットをもたらします。逆に、社員が不妊治療をしながら働き続けやすい職場づくりを行うことは、安定した労働力の確保、社員の安心感やモチベーションの向上、新たな人材を引き付けることなどにつながり、企業にとっても大きなメリットがあると考えられます。企業が社員の事情に応じてサポートする姿勢を示すことは、社員にとっても安心でき、仕事への意欲が増すなどの大きな影響を与えます。


■不妊治療と仕事との両立支援導入ステップ
企業が、社員の不妊治療と仕事との両立支援の取組を行うには、以下のステップが必要と考えられます。

ステップ1:取組方針の明確化、取組体制の整備
ステップ2:社員の不妊治療と仕事との両立に関する実態把握
ステップ3:制度設計・取組の決定
ステップ4:運用
ステップ5:取組実績の確認、見直し

不妊治療と仕事との両立支援導入ステップ
ステップ1:取組方針の明確化、取組体制の整備
不妊治療と仕事との両立に関し企業として推進する方針を企業トップが示し、講じている休暇制度・両立支援制度とともに社内に周知します。企業トップが方針を明確に示すことにより、不妊治療を受ける社員は制度を利用しやすくなるとともに、本人の上司や同僚等の理解やサポートが得やすくなり、不妊治療を含めた全ての社員が働きやすい風土づくりが可能になると考えられます。
取組体制の整備については、まずは取組を主導する部門や担当者等を決定します。
取組体制は、企業の実態に応じて異なりますが、経営者が主導したり、人事部門又は総務部門が主導したり、プロジェクトチームを編成して主導したりする場合などがあります。

ステップ2:社員の不妊治療と仕事との両立に関する実態把握
実態把握は、社員の不妊治療と仕事との両立支援の取組を進める上での出発点となります。不妊治療についての社員の理解度やニーズ等の現状を把握するには、チェックリストやアンケートを活用したり、社員からヒアリングを行ったり、労働組合等が社員の要望を取りまとめたりする場合には、そうした組織と意見交換を行うなどの方法があります。
並行して、メディアの報道等で国の施策や他社の取組、対応について情報収集しておくことも必要と考えられます。

1.実態把握の方法
社員の不妊治療についての認識や社員が治療を受けている、または受けようとしている状況、仕事との両立に関する不安や会社に求めたい支援のニーズなどを把握します。
把握の方法として、チェックリストにより社内の現状を把握した上で、社員の状況については、全社的なアンケートやヒアリング、社員の意識調査や人事面談など従来から実施しているものに不妊治療と仕事との両立に関する事項も含めて行う、または労働組合との意見交換を行うなどが考えられます。
こうしたアンケートやヒアリングなどの実施は、企業が不妊治療と仕事との両立を支援するという姿勢を示すことにもつながり、社員のモチベーションの向上に資することとなります。

2.把握すべき項目
(1)チェックリストによる企業内の現状の把握
「チェックリスト」を参照しながら、現状を把握することが考えられます。
(2)社員の状況の把握
@属性(性別、年齢、役職、雇用形態など)、A不妊治療の実態についての認識、B不妊治療の経験や予定の有無、C不妊治療と仕事との両立についての認識、D仕事や職場の状況などがあります。

ステップ3:制度の設計・取組の決定
ステップ2の実態把握を踏まえて、各企業の実態に応じた取組を検討し、制度設計を行います。不妊治療と仕事との両立に特化した制度だけではなく、社員のニーズに応じて柔軟に働ける制度を用意する方法もあります。
また、そもそも通常の働き方の見直しを行うことから始めることも重要です。なお、労働基準法上、就業規則の作成について、必ず記載しなければいけない事項が決められており、制度の内容によっては、就業規則の整備が必要な場合があります。

1.制度の設計・取組の決定
既に取り組んでいる企業の中には、不妊治療のための休暇(休職)制度を設けたり、治療費の補助や融資を行うなどの取組を行っている企業があります。一方、不妊治療は、頻繁に通院する必要があるものの、1回の治療にそれほど時間がかかるわけではありません。このため、不妊治療に特化するのではなく、以下のような柔軟な働き方を可能とすることにより、仕事との両立をしやすくする取組を行っている企業もあります。
@通院に必要な時間に合わせて休暇を取ることができるよう、年次有給休暇を半日単位・時間単位で取得できるようにする(注1)。
Aフレックスタイム制を導入して、出退勤時刻の調整ができるようにし、不妊治療目的でも利用できるようにする。
Bテレワーク(注2)を導入する。
社員のニーズに応じて働く時間や働く場所など、多様な選択肢を設けることも望ましいと言えます。特に、コロナ禍においてテレワークが普及する中で、テレワークとフレックスタイム制を組み合わせて利用すると休暇を取らずに通院できるメリットがあります。他の社員に業務の負担をかけることもなく、また、不妊治療を告知する必要もありません。

また、令和2年4月から施行されたパートタイム・有期雇用労働法及び改正労働者派遣法により、同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との間で、基本給や賞与、手当などのあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止されました。不妊治療と仕事との両立支援の取組を行う場合、自社の状況が法の内容に沿ったものか、社内の制度の点検を行うことが必要です(注3)。

さらに、不妊治療と仕事との両立に限らず、社員のワーク・ライフ・バランスを実現するためには、通常の働き方の見直しも必要となると考えられます。長時間の残業がない職場や年次有給休暇を取得しやすい職場環境など、社員の通常の働き方の見直しを行うことにより、全ての社員にとって働きやすい職場環境を整備することができます。
なお、具体的な取組や制度導入については、取締役会等の経営者層の意思決定機関で合意を得ることが効果的です。

(注1)使用者は、労使協定を締結することにより、1年に5日分を限度として時間単位で年次有給休暇を与えることができます(労働基準法第39条第4項)。

(注2)テレワークを制度化する場合は、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html)
に沿って実施する必要があります。本ガイドラインでは、労働基準関係法令の適用に関する留意点など、テレワークにおける労務管理の留意点を示しています。

(注3)詳細は、「多様な働き方の実現サイト」(https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/reform/?num=1参照

2.規定等の整備
労働基準法では就業規則の作成に際し、第89条第1号から第3号までに定められている事項(始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金、昇給、退職等に関する、いわゆる絶対的必要記載事項)について必ず記載しなければならないとしています。
導入する制度によっては、就業規則を整備し、労働基準監督署に届け出る必要がある場合があります。例えば、「不妊治療のための休暇制度」を導入する場合、@休暇の付与要件(対象となる労働者の範囲等)、A取得に必要な手続き、B休暇期間について記載する必要があります。また、この期間の賃金の支払いの有無や、支払われる場合は、@賃金の決定、計算及び支払い方法、A賃金の締切り及び支払時期について記載する必要があります。

ステップ4:運用
不妊治療を受けるために制度を利用する場合、社員本人からの申出が基本です。本人からの申出が円滑に行われるよう、不妊治療のための休暇制度・両立支援制度についての情報等を企業内の役員、管理職も含め全社員に周知することが必要です。
また、制度の周知と併せて、制度の利用がしやすく、不妊治療に対し理解のある職場風土づくりのためや、不妊や不妊治療を理由としたハラスメントが生じることのないよう意識啓発を行うことも極めて重要です。

1.制度等の周知と意識啓発
(1)自社の方針の明確化と制度の周知
社員が制度を知らなかったために、制度を利用できずに退職せざるを得なかったというような不本意な事態が生じないためにも、不妊治療と仕事との両立を支援するという企業トップの方針やメッセージを伝えるとともに、制度についての情報を企業内の役員、管理職も含め全社員に周知することが必要です。

(2)社内意識の醸成
制度運用の要は、それを必要としている社員が気兼ねなく利用できることです。不妊治療を行っている社員が、不妊治療と仕事を両立させるためには、職場の理解が必要です。反面、不妊治療を行っていることをオープンにしたくないと考えている人も多く、オープンにされていない場合、職場内の理解を得ることは難しいと考える企業もあるかもしれません。
しかしながら、不妊治療だけではなく、育児や介護など家庭事情を抱える社員は多く、そうした家庭事情と仕事との両立を支援しているという企業の姿勢やメッセージを企業トップが示し、管理職を通して社員に伝えたり、あらゆる機会を活用して社員に周知したりすることが必要です。
また、調査によると「不妊治療に係る実態を知っているか」という質問に対し、「ほとんど知らない、全く知らない」と回答した人が77%という実態があり、不妊や不妊治療についての正しい知識を周知することは社内意識の醸成のためにも必要です。

(3)ハラスメントのない職場づくり
前述のデータにも示されたように、不妊治療をしていることにより嫌がらせなどを受けた人がいますが、こうした職場環境は、不妊治療を受けている、または受けようとしている社員に働き続けることへの不安を感じさせたり、制度利用を躊躇させてしまう原因となります。制度の利用への嫌がらせはもとより、利用を躊躇せざるを得ない状況に陥ることはあってはならないことです。
また、上司や同僚が日頃の親しさから不妊治療を軽々しく扱うような発言を行うことは、治療を行っている社員からすると非常に傷つくものであることを一人ひとりが認識することが重要です。

ハラスメントは働く人の個人としての尊厳や人格を不当に傷つける社会的に許されない行為であるとともに、働く人が能力を十分に発揮することの妨げにもなります。
企業にとっても、職場秩序の乱れや業務への支障につながり、社会的評価に悪影響を与えかねない問題です。また、男女雇用機会均等法に基づいて策定された「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(令和2年6月1日から適用)において、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの発生の原因や背景には、不妊治療を含む、妊娠・出産等に関する否定的な言動があることなどが考えられるとされています。ハラスメント防止についての事業主の方針等の明確化を行い、周知することが重要です。

不妊治療を受ける人や不妊治療を受けることに対する直接的な嫌がらせや否定的な言動はもとより、からかう、軽々しく扱うといった振る舞いなどを慎むような周知も必要です。

(4)プライバシーの保護
調査によれば、不妊治療をしていることを職場で伝えている、または伝える予定の人の割合は38%、職場でオープンにしていない理由は「不妊治療をしていることを知られたくないから」「周囲に気遣いをしてほしくないから」が多くなっている実態があります。
不妊や不妊治療に関することは、その社員のプライバシーに属することですので、社員自身から相談や報告があった場合も、本人の意思に反して職場全体に知れ渡ってしまうことが起こらないように、プライバシーの保護に十分配慮する必要があります。

不妊治療に関し、本人から上司等が相談や休暇の申し出等を受けた場合には、相談内容の情報共有について、担当部署(人事部等)及び担当者(人事課長、係長等)の、どの範囲まで共有するかということも本人に確認しておくことが必要です。本人の同意なく、他の同僚や顧客、取引先等に告げるようなことは起こらないようにしておく必要があります。

(5)周知等すべき事項
@不妊治療と仕事との両立支援についての自社の方針
●不妊や不妊治療についての知識
●不妊治療と仕事との両立支援の意義
●不妊治療と仕事との両立を応援しているということ
●不妊や不妊治療を理由とするハラスメントを許さないこと
●プライバシーの保護

A制度の内容、利用要件や適用範囲、申請方法、申請事項、申請時期など

(6)周知方法
@通達、社内報、パンフレット、ハンドブック、イントラネット
A上司から部下への説明
B説明会、研修会、eラーニング等の実施

2.管理職や人事部の役割
(1)相談対応
不妊治療と仕事との両立に関する相談等についての対応窓口を定め、周知しておく必要があります。相談を受けた場合には、相談内容を誰にどの範囲まで共有してよいか、本人に確認しておくことが重要です。また、電話の場合には担当者の性別が分かるようにしたり、電子メールの場合には誰に見られるのか分からないグループアドレスは避けたりするような配慮が望まれます。
管理職や人事部の担当者は、制度の周知や社内意識の醸成のために重要な役割を果たす必要があるとともに、もし社員から不妊治療や不妊治療と仕事との両立について相談を受けた場合、社員の現状を把握する必要があります。
なお、不妊治療そのものについては、不妊専門相談センターに相談することを勧めることも有効です。

@相談対応のポイント
■「社員の不妊治療と仕事との両立を支援する」という企業メッセージを伝える。
■現在の社員の実態を可能な範囲で把握する。
■不妊治療と仕事との両立に対してどのような課題を抱えているかを把握する。
■社員がどのような働き方をしたいかのニーズを把握する。

A制度説明のポイント
■自社の不妊治療のための休暇制度・両立支援制度の説明をする。
■制度を利用する場合の具体的な申請方法と申請のタイミングの説明をする。

(2)職場内の理解の醸成(社員から不妊治療を行っていることを職場にオープンにすることに了解を得ている場合)
■不妊治療に限らず家庭の事情は全ての人に起こり得ることであることへの理解を深める。
■不妊治療を行っている者のカバーをしている社員の働き方や業務量の状況を把握し、必要であれば見直し、調整を行う。

ステップ5:取組実績の確認、見直し
制度や取組の実施後は、毎月、半年、1年等、一定の期間が経過した後に、取組実績を確認し、評価や見直しを行うといったプロセスが必要です。

(1)見直しに当たっての実態把握
見直しに当たっては、制度や取組の活用実績の確認の他、ステップ2で実施したアンケート、社員へのヒアリング、社員や労働組合等との意見交換により実態を把握します。

(2)見直しを行う際の確認すべきポイント
@自社の制度の趣旨や内容が、社員に周知されているか
運用段階での制度等の周知の重要性はステップ4に記載したとおりですが、その周知が社員に行き届いているかどうかの確認が必要です。

A自社の制度の利用要件が分かりやすいか、利用手続きが煩雑ではないか
これまでに利用の実績がなくとも、利用者の立場から見て制度の利用要件や利用手続きが分かりやすいものであるかを確認します。利用実績が少ないのは、要件が分かりにくかったり、手続きが煩雑であったりするということが理由であるかもしれません。そうした場合は、早急に見直しを行う必要があります。

B自社の制度が社員のニーズに対応しているか
不妊治療を必要とする社員が、連続した休暇を必ずしも必要とするとは限りません。長期的な休暇よりも短期の休暇や半日や時間単位で労働時間を調整できる働き方を望んでいる可能性もあります。また、テレワークのように情報通信機器を活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方などのニーズも考えられます。導入されている制度にとらわれず、自社の制度が社員のニーズに対応しているか確認することが重要です。制度を利用した社員へアンケートやヒアリングをするなどして、改善していくことも有効です。

■不妊治療と仕事との両立を支援するための各種制度や取組
(1)不妊治療のために利用可能な休暇・休職制度

@不妊治療に特化した休暇制度
A不妊治療に特化しないが、不妊治療も対象となる休暇制度
B失効年次有給休暇の積立制度
C半日単位・時間単位の年次有給休暇の取得制度
D不妊治療に特化した休職制度

(2)両立を支援する柔軟な働き方に資する制度
@フレックスタイム制
A時差出勤制度
B短時間勤務制度
Cテレワーク
D再雇用制度

(3)不妊治療に係る費用の助成制度
@不妊治療費に対する補助金制度
A不妊治療費に対する貸付金制度

(4)その他の不妊治療に関連する両立支援制度や取組
@専門家への相談
Aeラーニング
B研修、セミナー、啓発資料の作成配布等の啓発活動
C社員のニーズ調査の実施
D人事労務担当者、産業医等、産業保健スタッフ、経験者に相談できる体制整備、情報提供

「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」では、制度や取組を導入、実施している企業の事例を多数紹介しています。

詳しくは下記参照先をご覧ください。

参照ホームページ [ 厚生労働省 ]
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/30.html

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