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【経営】

「就活ハラスメント防止対策:企業事例集」のパンフレットを公表

 職場における総合的なハラスメント対策のポータルサイト「あかるい職場応援団」から、ハラスメント関係資料ダウンロードページに「就活ハラスメント防止対策 企業事例集」のパンフレットを掲載したとの公表がありました。これは、就活ハラスメント防止に向け、採用担当者、リクルーター(OB・OG等)等を対象とした研修や就活ハラスメントに関する相談窓口の設置等に取り組む企業の先進事例をとりまとめたものです。

■はじめに
「就活ハラスメント」とは、「就職活動中やインターンシップの学生等に対するセクシュアルハラスメントやパワーハラスメント」のことをいい、立場の弱い学生等の尊厳や人格を不当に傷つける等の人権に関わる許されない行為です。

また、企業にとっても、
・「就活ハラスメントを起こした会社」として、企業の社会的信用を失い、企業イメージの低下

・就職後の職場でもハラスメントが横行している会社だと学生に認識され、応募が減少する可能性

・働いている従業員にも、働く意欲やモラルの低下により生産性に悪影響が及び、貴重な人材の退職・流失


等のリスクが生じる重大な問題です。

労働施策総合推進法及び男女雇用機会均等法に基づく指針においては、就活ハラスメントに関する防止措置として、

・雇用管理上の措置として、職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、就職活動中の学生等に対するハラスメントについても同様の方針を示すことが望ましい

・就職活動中の学生等から職場におけるハラスメントに類すると考えられる相談があった場合に、その内容を踏まえて、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい

と明記され、各企業における取り組みが求められています。

今般、就活ハラスメント防止に向け、採用担当者、リクルーター(OB・OG等)等を対象とした研修や就活ハラスメントに関する相談窓口の設置等に取り組む企業の先進事例をとりまとめました。今後、就活ハラスメント防止対策を講じる際の参考としていただければ幸いです。


■就活ハラスメント対策企業取り組み状況現状分析
今回、就活ハラスメント対策に取り組む企業10社にインタビューし、その取り組み内容を好事例としてまとめました。その結果、規則・規定に就活ハラスメントに関して記載しているのは10社中8社、人事担当者やリクルーターに就活ハラスメント防止他の教育や資料配布を行っているのは10社中9社、社員全体に対し就活ハラスメント防止のための情報周知をしているのは10社中1社、就活生向けに就活ハラスメント防止について周知しているのは10社中5社、就活生が利用できる相談窓口を設置しているのは10社中4社でした。

今回インタビューにご協力頂いた各社からは、先進的な取り組み内容が伺えました。その中でも、1.「公正な採用選考」に基づいた面接実施、2.リクルーターの行動指針やマニュアル策定、3.応募者の個人情報の限定利用、という3つの共通項が見えてきました。これら3つの具体的な取り組み内容について、ここで抜粋して紹介します。

1.「公正な採用選考」に基づいた面接実施
複数の企業から、「公正な採用選考」という文言が聞かれました。公正な採用選考は、厚生労働省が事業主にお願いしている、就職の機会均等を確保するための、応募者の基本的人権を尊重した公正な採用選考の実施のことです。採用選考に当たって、@応募者の基本的人権を尊重すること、A応募者の適性・能力に基づいて行うこと、の2点を基本的な考え方として実施することを求めています(公正採用選考特設サイト:https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/index.html)。

◆公正採用選考人権啓発推進員を活用し、面接時に公正な採用選考について宣言【ニップシステムセンター】
・本人に責任のない事項(出生地、家族、住宅状況、生活環境等)に関することや本来自由であるべき事項(宗教、支持政党、人生観、尊敬する人物、思想、労働組合、愛読書等)に関することについて、面接で尋ねない

◆面接官への事前レクチャーにより、就職差別行為を行わないよう注意喚起【積水化学工業】
・本人に責任のない事項(出生地、家族、住宅状況、生活環境等)に関することや本来自由であるべき事項(宗教、支持政党、人生観、尊敬する人物、思想、労働組合、愛読書等)に関して質問することについて「就職差別」に該当しかねないことを説明

◆公正な採用選考を中心とした面接官向け研修【東京電力ホールディングス】
・アイスブレイク時、プライベートに関する質問をしないよう注意喚起
・不適切な質問の具体例の紹介

厚生労働省が示す「公正な採用選考の基本」では、採用選考時に配慮すべき事項として、次ののような適性と能力に関係がない事項を応募用紙等に記載させたり面接で尋ねて把握することや、を実施することは、就職差別につながるおそれがあるとして注意を促しています。

<a.本人に責任のない事項の把握>
・本籍・出生地に関すること(注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)
・家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)
・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
・生活環境・家庭環境などに関すること

<b.本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)の把握>
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条などに関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

<c.採用選考の方法>
・身元調査などの実施(注:「現住所の略図等」を提出させることは生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性があります)

・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施(合理的・客観的に必要性が認められない「健康診断書」を提出させること)

2.リクルーターの行動指針やマニュアル策定
就活ハラスメントの中でも特にセクシュアルハラスメント(セクハラ)は、若手の社員がリクルーターとして活躍するOB・OG訪問や面談時に起こりやすいことがわかっています。そこで各社では、リクルーターの行動指針やマニュアル、ガイドブックを策定していました。

◆「リクルート活動における行動規範」【大林組】
・OB・OG面談時に個室利用を不可とする
・OB・OG訪問を受ける際は会社に事前に届け出る
・OB・OG面談時にLINE等のSNSを使用しない

◆「リクルーターハンドブック」【住友生命保険】
・OB・OG訪問用マッチングアプリへの登録を禁止する
・内定者懇親会等で酒席を共にする場合の留意点(質問するべきでない事項や配慮するべき事項)を明記する

◆「ニッポンハムグループ採用ガイドライン」【ニッポンハムグループ】
・基本的人権の尊重やハラスメント行為の禁止について明記する

◆「就職対応ハンドブック」【ジャックス】
・学生と接する際のマナーについて記載する
・座談会を行う際の目的を明確にする

3.応募者の個人情報の限定利用
そもそも就活ハラスメントが発生しない状況をつくるために、下記の会社ではより厳しい対策が取られていました。選考に多少の不便さがあっても、ハラスメントの芽を摘むことをより重要視しています。

◆学生の個人情報を一部非公開に【積水化学工業】
・エンントリーシートに記載された学生の個人情報の一部を非公開にすることで、採用担当者やリクルーターが個人情報を悪用することを防ぐ

企業によって、これら全てを禁止しているところもあれば、注意喚起に留めているところもありましたが、公正な採用選考の基本に沿って面接等を行うことは、就活ハラスメント防止に対してもまず押さえるべき基本と言えそうです。それに加え、リクルーターの行動指針やマニュアル策定、未然防止策として応募者の個人情報保護や接触機会の減少に取り組むことが、就活ハラスメントの防止に繋がる可能性があります。今回インタビューにご協力頂いた10社の取り組み内容を参考に、今後多くの企業で就活ハラスメント防止対策が進むことが期待されています。

詳しくは下記参照先をご覧ください。

参照ホームページ [ あかるい職場応援団 ]
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/download/

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