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会社運営に役立つ法令情報

【経営】

「中小M&Aガイドライン」を改訂

 中小M&Aガイドラインは、後継者不在の中小企業を対象とする中小M&Aの当事者となる中小企業や、中小M&Aをサポートする各種支援機関の手引き・行動指針を示すことを目的として、令和2年3月に中小企業庁が策定したガイドラインです。初版策定時から3年程度経過する中、新たに見受けられるようになった様々な課題に対応するため、このガイドラインが改訂されました。


1.改訂の趣旨
中小M&Aガイドライン(初版)策定から約3年が経過しました。この間、中小M&Aは定着してきたものの、特にマッチング支援やM&Aの手続進行に関する総合的な支援を専門に行うM&A専門業者(主に仲介者・FA(フィナンシャル・アドバイザー))に関する様々な課題が見受けられるようになりました。

そのような課題に対応するため、中小M&Aガイドライン(第2版)においては、特にM&A専門業者向けの基本事項※を拡充するとともに、中小企業向けの手引きとして、仲介者・FAへの依頼における留意点等を拡充しました。

また、中小M&Aに関する行政・民間の取組が進展したため、これらを紹介します。

※金融機関、士業等専門家やM&Aプラットフォーマー等が仲介業務・FA業務等を行う場合にも、業務の性質・内容が共通する限りにおいて、準拠した対応を想定。


2.改訂の主なポイント
(1)仲介者・FAの手数料の整理
M&A専門業者の手数料に関し、実務上多く用いられる算定方式(レーマン方式)について依頼者である中小企業において留意すべき点を明記し、また、設定されることが多い最低手数料について、その金額の分布状況や適用事例を紹介しています。

・仲介者・FAの手数料については、依頼者である中小企業にとって、手数料(特に成功報酬)の算定方法の複雑さ、最低手数料の適用等の理由から、自己が負担する手数料を適切に把握することは必ずしも容易ではない。

・手数料については、レーマン方式によるものが多いが、「基準となる価額」については様々な考え方があり、採用される考え方によって報酬額が大きく変動し得ることから、「基準となる価額」の考え方・金額の目安や報酬額の目安を確認しておくことが重要であるなど、留意点を明記。

・また、最低手数料を設定する仲介者・FAは多く、手数料に関しレーマン方式と最低手数料を併記し、最低手数料の分布や最低手数料が適用される事例を紹介(なお、本ガイドラインにおいて、仲介者・FAは手数料に係る重要事項を仲介契約・FA契約締結前に、書面交付して説明しなければならない、としている【後掲】。
仲介者・FAの手数料の整理

(2)M&A専門業者の質の確保・向上に向けた取組
支援の質の確保・向上に関し、M&A専門業者には、依頼者との間の契約上の義務の履行し、職業倫理の遵守することが求められる旨を明記しました。そのためには知識・能力の向上、適正な業務遂行を図ることが重要であり、個々のM&A専門業者や業界に求められる取組を紹介しています。

・M&A専門業者について担当者によって支援の質にばらつきがあるなどの課題を把握。

・支援の質の確保・向上に関し、M&A専門業者には、依頼者との間の契約上の義務(善管注意義務・忠実義務)を履行し、職業倫理を遵守が求められることを明記した。

・M&A専門業者が契約上の義務を履行し、職業倫理を遵守して支援を行うためには、@知識・能力の向上、A適正な業務遂行を図ることが重要。個々の支援機関・業界における取組が求められる。

契約上の義務の履行・職業倫理の遵守
・善良な管理者の注意(善管注意義務)をもって業務を処理しなければならない。依頼者の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ってはならない(忠実義務)。(仲介者の場合)いずれの依頼者に対する関係でも公平・公正でなければならず、一方の利益優先又は一方の利益を不当に害するような対応をしてはならない。

・契約上の義務を負うかにかかわらず、職業倫理として、依頼者の意思を尊重し、利益を実現するための対応が求められる。

経営トップの意識
・代表者は「@知識・能力の向上」及び「A適正な業務遂行」を通じて質の高い支援をすることが重要である旨のメッセージ発信(例えば、経営理念や経営ビジョンにその趣旨を反映するなど)し、メッセージと整合的な取組を実施する必要がある。

@知識・能力の向上(取組例)
・必要な知識・能力の水準の明確化→人材育成(人材育成方針の策定・実施。社内研修・社外研修の受講支援。)
・知識・能力向上の取組・成果の適切な評価(人事評価の項目化、報酬・給与への反映。)

A適正な業務遂行を図ること(取組例)
・役員・従業員の適正な業務遂行確保(業務規程・マニュアル等の整備、経験者と共同で業務、社内相談窓口、依頼者からの苦情受付・対応等)
・外部委託先の適正な業務遂行確保(委託先の選定基準制定、依頼者の了承取得、委託業務の明確化、委託先への監督・指導、委託元による苦情把握等)

他の支援機関(特に士業等専門家)との連携
・M&A専門業者ごとの業務の範囲・内容等を踏まえて、他の支援機関と積極的に連携することが望ましい。

M&A仲介・FA業界の実務の発展に向けた取組
・可能な限り多くの仲介者・FAの積極的な関与の下、支援の質の底上げ等のため業界としての統一的なルール制定・遵守を期待。
・自主規制団体であるM&A仲介協会における、より一層の効果的な取組を期待。


(3)仲介契約等の締結前の書面による重要事項の説明
仲介契約・FA契約に関し、M&A専門業者は、契約締結前に契約に係る重要な事項を記載した書面を交付(電磁的方法による提供も可)して、明確な説明することを明記しました。また、説明すべき重要な事項を見直すとともに、説明を受ける相手方、説明者、説明後の重要な検討時間の確保等も明記しました。

・仲介契約・FA契約については、依頼者である中小企業にとって、契約の内容が多岐にわたる複雑なものであるなどの理由から、仲介とFAの違いや契約内容を理解することは必ずしも容易ではない。

・依頼者が契約内容を正しく理解した上で、適切な判断の下、仲介契約・FA契約を締結できるよう、M&A専門業者は、契約締結前に、契約に係る重要な事項を記載した書面を交付(電磁的方法による提供も可)して、明確な説明をしなければならない旨、明記した。また、説明すべき重要な事項を見直し、説明を受ける相手方、説明者、説明後の十分な検討時間の確保等も明記した。
なお、参考資料として、重要事項説明書のひな形を併せて公表している。

【説明すべき重要な事項】
・仲介者・FAの違いとそれぞれの特徴(仲介者として両当事者から手数料を受領する場合には、その旨も含む。)
・提供する業務の範囲・内容(マッチングまで行う、バリュエーション、交渉、スキーム立案等)
・手数料に関する事項(算定基準、金額、最低手数料、既に支払を受けた手数料の控除、支払時期等)
・手数料以外に依頼者が支払うべき費用(費用の種類、支払時期等)
・秘密保持に関する事項(依頼者に秘密保持義務を課す場合にはその旨、秘密保持の対象となる事実、士業等専門家や事業承継・引継ぎ支援センター等に開示する場合の秘密保持義務の一部解除等)
・直接交渉の制限に関する事項(依頼者自らが候補先を発見すること及び依頼者自ら発見した候補先との直接交渉を禁止する場合にはその旨、直接交渉が制限される候補先や交渉目的の範囲等)
・専任条項(セカンド・オピニオンの可否等)
・テール条項(テール期間、対象となるM&A等)
・契約期間(契約期間、更新(期間の延長)に関する事項等)
・(契約の解除に関する事項及び依頼者が仲介契約・FA契約を中途解約できることを明記する場合)当該中途解約に関する事項
・責任(免責)に関する事項(損害賠償責任が発生する要件、賠償額の範囲等)
・契約終了後も効力を有する条項(該当する条項、その有効期間等)
・(仲介者の場合)依頼者との利益相反のおそれがあると想定される事項


(4)直接交渉の制限に関する条項における留意点
直接交渉の制限に関する条項の留意点に関する項目を新設し、制限される候補先、交渉目的及び期間に関する留意点を明記しました。

・依頼者が、M&Aの相手方となる候補先と、M&A専門業者を介さずに直接、交渉又は接触することを禁じる旨(直接交渉制限)の条項における候補先については、基本的には、当該M&A専門業者が関与・接触し、紹介した候補先のみに限定すべきである。

・また、直接交渉の制限の交渉については、依頼者の通常の事業を阻害しないよう、依頼者と候補先のM&Aに関する目的で行われるものに限定すべきである。

・さらに、直接交渉の制限の期間については、契約終了後に依頼者が候補先と直接交渉してM&Aを成立させた場合には、テール条項により、M&A専門業者が依頼者に対して手数料を請求し得ること、仮に仲介契約・FA契約が終了した後にも制限が残る場合、(テール条項により発生する手数料を支払うことを覚悟した上で)MAを実行するといった、依頼者の自由な経営判断を損なうおそれがあること等を踏まえ、仲介契約・FA契約が終了するまでに限定するべきである。

【直接交渉制限に関する条項の留意点】
【制限される候補先】

・基本的に、M&A専門業者が関与・接触し、紹介した候補先のみに限定するべき。
※依頼者が「自ら候補先を発見しないこと」及び「自ら発見した候補先と直接交渉しないこと(依頼者が発見した候補先とのM&A成立に向けた支援をM&A専門業者に依頼する場合を想定)」を明示的に了解している場合を除き、当該M&A専門業者が関与・接触し、紹介した候補先のみに限定するべき。

【制限される交渉】
・依頼者と候補先のM&Aに関する目的で行われる交渉に限定するべき。

【制限される期間】
・仲介契約・FA契約が終了するまでに限定するべき。

詳しくは下記参照先をご覧ください。

参照ホームページ [ 経済産業省 ]
https://www.meti.go.jp/press/2023/09/20230922004/20230922004.html

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