【経営】
人手不足や働き方の多様化、市場の不確実性の高まりなどの環境の変化に、中小企業の経営者はどのように向き合うべきなのか?経済産業省では、一人ひとりの多様性を活かし、その能力を最大限発揮できる機会の提供、すなわちダイバーシティ経営の実践が鍵であると考えているということです。
そこで、同省は、中小企業の皆様のダイバーシティ経営の取り組みをサポートするリーフレットを作成し、公表しました。対象となる読者層は、ダイバーシティ経営の取り組みをどのように自社に定着させたら良いかわからない等の課題を抱える中小企業の経営者・従業員を想定しているということです。
■ダイバーシティ経営は一歩先の未来をつくる
人手不足や働き方の多様化、市場の不確実性の高まりなど、激しい環境の変化に、中小企業の経営者はどのように向き合うべきなのでしょうか。私たち経済産業省は、多様な人材の活躍が鍵を握ると考えています。人材の多様性が増すと、生産性の向上や人手不足の解消など、企業の価値創造につながります。
性別、年齢、人種や国籍、障害の有無、価値観だけでなく、キャリアや経験、働き方なども含めた一人ひとりの多様性を活かし、その能力や特性を最大限引き出すことで、持続的に付加価値を生み出し続ける−。経済産業省では、そのような経営のあり方を「ダイバーシティ経営」と定義し、企業における取り組みを推進しています。
「ダイバーシティ経営」は、全くのゼロから始める必要はありません。これまで取り組んできた「経営理念の浸透」や「人事制度の設計」「現場の風土づくり」を一人ひとりが活躍できる形へアップデートすることで「ダイバーシティ経営」は実現します。同時に、経営者、人事、現場の管理職の三者が互いに連携し合い、取り組みを定着させることも欠かせません。
そうはいっても「実際にどのように取り組みを定着させたら良いかわからない」というのが本音だと思います。本誌では、始めの一歩に寄り添うコンテンツやツールを用意しました。「ダイバーシティ経営」の実践方法は、各社の目指す方向性によって異なります。まずは、「自分たちができそうだ」と思うところから、一歩目を踏み出してみてください。
■ダイバーシティ経営を実現する6つの行動指針
ダイバーシティ経営を通して目指す姿は個社ごとに異なり、決まったゴールもない。大切なのは今の組織のあり方を常に問いかけ、その都度ベストな状態となるよう、アップデートし続けることだ。私たちは、各社が自社なりのダイバーシティ経営を実現するため、VISION(ダイバーシティ経営の目的)を中心に、個人と組織、双方の側面からダイバーシティ経営を実現するための6つの行動指針を定義した。これらを参考に、自社にとってのダイバーシティ経営とは何かを考えるきっかけとして欲しい。
【多様な個の特性を活かすリーダーシップ】
人の特性や働き方を理解して、配置や役割を考えるリーダーシップ。本来の力を発揮して仕事ができる関係性をつくる。社員が目指す多様な働き方に向き合い、機会を提供する。
【多様な個が柔軟に活躍する仕組み】
多様な人材が柔軟な働き方と昇進する機会を両立できる仕組みや制度。採用や昇進における判断基準が属性やバイアスに基づかないものである。健康に働ける環境がある。
【多様性を受容する文化】
多様な価値観が受け入れられる組織文化。昇進したくなる組織風土が醸成されている。多様な人材が重要な役職に登用されている。属性によらず、仕事の責任・裁量を決めている。
【多様な人が仕事と生活を両立する協力】
自分だけで仕事を抱え込まずに、お互いに協力しあえる環境。世代を超えて理解、協力し合う。生活においても家事や育児などの役割を一人で抱え込まず、性別によらず協力しあう。
【多様な個それぞれの意思の追求】
属性や状況によらず、多様な人材が得意を活かしてなりたい姿を描けること。主体的にキャリアを考えている。自分だけで悩まずに、周囲と意見交換したり、協力をお願いする。
【偏見のないコミュニケーション】
多様な人材が属性や世代、価値観の違いを互いに理解して関わりあえること。学歴や職歴に基づいて判断することなく、ともに仕事を進める。どんな国籍や文化を持つ人とも等しく接する。
■ダイバーシティ・コンパス
6つの行動指針は、経済産業省がダイバーシティ経営を推進するに当たって、目指すべき姿や指針をダイバーシティ・コンパスという形で試行的に整理したツールから抜粋したもの。各行動指針には、それらに紐づく問いが載っており、自社らしいダイバーシティ経営のあり方を、社員一人ひとりが模索できるようになっている。今後、企業における使い方を整理し、公表する予定。
ダイバーシティ・コンパスウェブサイト
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/compass/index.html
■ダイバーシティ経営が企業成長にもたらす4つの効果
1つ目は「プロダクト・イノベーション」。性別、年齢、出身国、キャリアパス、他業界で働いた経験、学歴の6要素で経営層の多様性を測定。スコアが平均以上の企業は、売上高に占めるイノベーションの割合が19%高い(※1)。
2つ目は「プロセス・イノベーション」。企業の多様な人材の増加は、柔軟な働き方の実施等、そういった人材の活躍に向けた取り組みとセットで行うことで、生産性の向上が期待できる(※2)。
3つ目は「外部評価の向上」。ダイバーシティ経営の恩恵として、日本企業を含め、多くのグローバル企業が「人材の獲得」や「業績の向上」と回答。特にミレニアル世代は、就職先を選ぶ際、企業の「多様性や受容性の方針」を重要視し、女性はこの傾向が顕著である(※3)。
4つ目は「職場内効果」。ダイバーシティ経営を重視している企業は、「働き方の効率化・生産性向上」「エンゲージメント向上」に効果を感じている人の割合が高い(※4)。
ダイバーシティ経営に取り組むことは、財務・非財務、双方に良い影響を及ぼす。まずは、今の経営の延長線上でできることは何かを探してみる。それが、成果につながる一歩目となる。
参考:ダイバーシティ経営診断シートの手引き注釈:※1:(出所)BCG「How Diverse Leadership Team Boost
Innovation」(2018)※2:(出所)「経済財政白書(令和元年版)」付注2−9※3:(出所)PwC 第18回世界CEO意識調査
2015年境界なき市場競争への挑戦(2016年)※4:(出所)「日本の人事部人事白書2022」
■多様な視点を掛け合わせる対話の実践
「ダイバーシティ経営」の実践には「経営理念の浸透」「人事制度の設計」「現場の風土づくり」の3つが必要だ。定着に向け、多様な視点からの振り返りとその共有が求められる。その手法の1つとして、対話の方法を紹介する。
ダイバーシティ経営に取り組む意義をしっかりと伝えたい。ダイバーシティ経営を進めるための次の一手を社員から募りたい。施策に対して起きている対立や反発に向き合いたい。対話とは、こうした状況において、ダイバーシティ経営を次の段階に進めるための手段となる。対話を通し、多様な視点が掛け合わさることで、経営者だけでは捉えきれていなかった課題の発見や、一人では生まれなかった新しいアイデアの創出につながる可能性がある。
そこで、対話を実践するツールとして経済産業省が作成した「ダイバーシティ経営対話シート」を紹介する。本シートは、多様な人材が活躍するための土壌が企業内に整備されているかを、社内メンバーの多様な視点から振り返り、それを共有することを目的にしている。「経営者」「人事」「現場管理職」「組織文化」の4つのカテゴリーで構成され、それぞれのカテゴリーについて、経営者と社員が互いの認識を持ち寄ることで、社内の制度や文化に対する認識の共通点やギャップを把握することができる。
このギャップの認識は社内の課題の特定や改善策の策定につながり、経営者と社員の合意の上での取り組みの実施につながっていく。対話シートをダイバーシティ経営の実践を深める第一歩として活用してほしい。
※現状把握や施策検討には「改訂版ダイバーシティ経営診断シート」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/turusimenban.pdf
や、「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」をご活用ください。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/h30_guideline.pdf
詳しくは下記参照先をご覧ください。